車だけじゃない!住宅の型式認定について
最近では自動車メーカーの不正問題が世間を賑わせていますが、多くの人が利用する車でこのような不正があると心配になりますよね。世界的にも有名な各社が、内容や背景は異なるにせよ不正を行ったことは衝撃的なお話です。
実はこの話、「住宅業界にも大きく影響する」可能性があります。今回はそんな他人事ではない「住宅の型式認定」についてお話していきます。
目次
1.今回の騒動について
まずは今回問題となっている車のお話からしていきます。今回問題となっているのは自動車の型式認証制度に関わるものです。
型式認証制度とは簡単に言えば自動車を円滑に生産・販売するための制度で、本来であれば自動車を販売するためには下記の手順が必要です。
①自動車は生産後にメーカー検査を行う
②車両を提示して新規検査を受ける
③出荷OK
基本的には上記の手順が必要ですが、自動車は大量に生産・販売するため1台ずつ車両を提示して新規検査を受けていくのは大変です。そこで、保安基準などを満たしている「型式の指定」を受けることで、その型式でつくられた自動車は新規検査での車両提示が省略可能になります。今回の場合、その「型式指定」を受けるために必要な開発試験やデータ等が法規手順に則って行われたものではないことが発覚し問題となっています。但し、その多くは法で定めるものよりも厳しい基準で行っていることが大きな特徴です。
車のように「人の安全を考慮し、複雑な工程を経てつくられ、検査を行いお客様に引き渡される」ものとして住宅があります。この住宅においても似たような認証制度が存在しています。
2.住宅の型式認定
住宅では「住宅型式性能認定」と「型式住宅部分等製造者認証」が存在しています。
あくまでイメージですが、「Aという方法で建てた住宅(各部位)はBという性能ですよ」と予め認定されることが住宅型式認定、その方法でちゃんとつくることができる製造者であることを認証したものが型式部分等製造者認証という感じです。
この制度を利用することによって、構造計算を始めとする各種計算や建築時の審査が省略可能となり多くの住宅を建築できるようになります。そのため、認定制度を利用しているのは建築棟数の多い大手住宅会社が大多数です。
3.自動車と異なる点
自動車と住宅の認証・認定制度の異なる点はいくつかあります。
①審査機関
自動車の場合、国土交通大臣に申請を行い国などが審査を行いますが、住宅の場合は国土交通大臣に申請し登録が認められた住宅型式性能認定機関が審査を行います。
②認証・認定範囲
自動車の場合、基本的に車種ごとに認証を受けますが、住宅の場合は住宅や部材、設備など認定範囲が多岐に渡ります。
上記のように、住宅の方は認定範囲が細かく多く、更に認定機関は国が主体ではありません。そして、自動車と住宅で最も異なる点は「建築する地域や土地、お客様の希望などで建築する住宅が全く異なる」という点です。
自動車は認証を受けると基本的に同じ自動車をつくります。一方で住宅の場合、「この住宅はAとBの認定を使う」「ここではAだけ使う」「ここはAは使えないからC」など状況によって変わっていきます。
これらの結果、あまり報じられていませんが住宅業界においても認定制度における不正問題が起きています。
4.住宅業界の不正
過去の住宅業界における型式認定の不正(不適合)のうち主なものについて解説していきます。
ケース①「不適切な施工」
このケースでは、認定された型式通りに建築しなかったという事案です。本来の施工方法とは異なる方法で建築した結果、性能だけではなく建築基準法にも違反していました。
また型式とは関係ない事案で建築基準法違反も報告しており、型式認定に対する内部検査の不足、また外部からの検査が不足していることが浮き彫りになった事案です。
ケース②「型式認定を知らなかった」
このケースでは、型式認定に関する社内周知が徹底されておらず、認定された型式とは違う方法にも関わらず建築時に適切な審査を受けなかったという事案です。この事案では「型式認定の内容に誤解があった」とされており、従来の方法が型式から外れる、細かい規定が追加されるなど設計者を中心に誤解が生じていたとのことで、建築された数十万棟が調査対象になりました。
住宅の型式認定制度の特徴でも挙げたようにどの住宅に対しても同じ型式を使用する訳ではありませんが、型式認定を取得している会社は建築の多くを審査省略できる方法で建築を行っています。そのため、従来の方法が使用できなくなるような認定を会社が受けると思っていなかったとしています。
ケース③「システムの不具合」
このケースでは、システムの不具合により適切な部材を使用せず建築された事案です。
型式認定では、規定の内容通りに建築された場合はその性能を持っている住宅(部位)と判断します。このケースでは、型式に必要な部材をソフトによって計算していましたが、ソフト自体に不具合があり本来使用するべきではない部材によって建築されたため不適合とされ、調査対象は1万棟を超えています。
このケースで注目すべきは、設計または建設性能評価(設計性能評価:設計時点でどのような住宅性能を有しているか判断するもの/建設性能評価:設計性能評価通りに建築されたか確認するもの)を受けている住宅が不適合の半数以上を占めたという点です。型式により建築される部分はその性能を有していると判断されること、また型式通りの建築か否かの判断は建設性能評価による現地調査ではなく、あくまで住宅会社の責任において行います。そのため、第三者機関である設計・建設性能評価の評価員が気づくはずもなく、型式認定による建築と設計・建設性能評価の同時利用には十分注意が必要であることがわかります。
5.最大の問題点
実は先ほど挙げた不正(不適合)は、この5年間に起きた事案で昨年報告されたものも含まれています。それにも関わらず業界内でさえ知っている人はかなり少ないのが現状です。
そして、最大の問題は「建てる住宅が型式認定によって建築を行うのか見分けることは難しく、正しく施工されているかの判断も建築会社しか行わない」という点です。
自動車も基本的にメーカーを信用し購入しますが、同一車種の基本構造は同じである程度決まった工場で部品製造や組み立てを行います。そのため、製造時の不正ではなく認証を取る際の試験データ(良くも悪くも国の基準と異なる試験方法によるデータの提出)の不正によるものが多く見られ、今後は認証基準や審査方法の変更などによって改善されていくことは考えられます。
一方住宅における不正(不適合)では、施工時やシステム不具合、そもそも現場が把握していないなど理由は多岐に渡り、更に施工時に第三者確認が行われる機会は基本的にありません(2025年から一定の木造住宅などは構造・省エネに関する図書の提出は義務付けになります)。また、認定件数は数万件にも及ぶため不正(不適合)がないか定期的な検査を行うことは現実的ではありません。
このようなこともあり、出来るだけ第三者による確認・検査が行われる方法でお家を建てることが望ましいでしょう。特に北海道の場合は冬は寒く積雪による荷重もあるため断熱・構造部分は特に重要です。北海道の建設性能評価(設計時の性能を有しているか第三者機関が現場検査などで評価するもの)の取得率は2023年で約5%と全国でも最低クラスで、性能評価の取得はまだまだ一般的とは言えません。これから住宅を建てる人は必ず建設性能評価を受けることをおすすめしますが、型式認定を中心に建築する住宅では検査の一部が省略されるので注意しましょう。
お問い合わせ
▼▼▼▼▼