いつか小春日和に

この物語は、ある家族のマイホームを建てるまでの苦悩や喜びを実際に体験した話をもとに構成したお話です。
マイホームを建てることは、家族にとって一生に一度の大切な「家族の事業です。」
紆余曲折の末、晴れてその日を迎える大切な日を私たちは幾度となく立ち会い、喜びの笑顔を見てまいりました。
これからマイホームをお考えの方も、又そうでない方も暇つぶしに一読してください。

家族構成
夫佐藤秀樹(仮名)35歳アドバンス電気営業部勤務
妻京子(仮名)39歳アドバンス電気総務部勤務
娘あかり(仮名)5歳にこにこ幼稚園ゾウ組さん
職場結婚5年目
5歳年上の姉さん女房のおかげで気楽に楽しむ秀樹ですが・・・・。

結婚式での出来事。
新郎新婦の新居は新郎の父親から、結婚祝いに贈られた
2LDKの新築マンションだと司会者が声高らかに紹介している。

高校の同級生である中村が
世の中には金持ちで恵まれている奴がいるんだな~とポツリ。
俺なんか家賃65,000円、築20年の2DKの木造アパートだよ。
女房と3歳になる息子、1歳の娘と4人暮らし。
マイホームなんていつのことやら。うらやましいよ、あいつが・・・
なあ、佐藤!お前は家を買わないのか?
俺と違って共稼ぎだし子供も一人、貯金も相当あるだろう!」

中村の愚痴とも、やっかみとも思える話をなんとなく聞き流していた。
俺は社宅住まいで家賃も安い。
その分小遣いを多めにもらい趣味のバイクを楽しんでいる。
人並みにマイホームパパもこなし、妻から愚痴られることもなく充実した生活を送
っている。べつにマイホームなんて、と心でつぶやいていた。

土曜の朝、パジャマ姿のまま、定番のコーヒーを一口。
何気なく新聞を広げてみると住宅販売のチラシが山ほど入っている。
一枚一枚ながめているうちに、夕べの話が頭をよぎった。
「マイホームか」と
つぶやいた言葉にいち早く反応したのが娘のあかりだった。

パパ、私ね、お城みたいなおうちに住みたいな!
幼稚園のともみちゃんはお城にすんでるんだよ。外の壁は真っ白で、お部屋の天井
にお星様がたくさん光ってるの。
それにね、ともみちゃんのパパとママはいつもニコニコしながらお話してとっても
仲良しなんだよ。」

つぶらな瞳をらんらんと輝かせ、
一生懸命に話すあかりに圧倒されようやく目が覚めた。
あかりの話に呼応するように、妻の京子が一気に話し始めた。
そうなのよ。最近ともみちゃんのところ、建売住宅を買ったの。
幼稚園から少し離れているんだけれど、
新しい分譲用地にある4LDKの洋風輸入住宅。

1階の居間は大きな吹き抜けがあってとっても開放的。
対面キッチンにママさん専用カウンター。
2階はホールからつづく広々バルコニーがあって
寝室はウオークインクローゼット付、洋室が二部屋に納戸まであって・・・・

でるわ、でるわ、熱のこもった話を1時間近く。
普段は控えめな京子が別人に見えた。

4LDK?輸入住宅?ウオークインクローゼット?
対面キッチンに、ママさん専用カウンター?
なっ、なんだ?今まで気に留めた事もないフレーズに困惑してしまった。
どうしてこんなにも色々なことを知っているんだ?
おそるおそる、京子に尋ねてみると。

結婚して幸せに暮らし始めたら、マイホームを夢見るのは当然のことよ。
お庭で子供と遊び、部屋中をたくさんのお花で飾りたい。
女性だったら毎日そんな空想はするもの。
住宅関連雑誌だって1冊ぐらいは必ず持っているわ。
そういえば、会社の鈴木さんも去年、一戸建てを建てたし、お隣の大黒さんも検討
中らしいわよ。
えっ、そうなの?知らなかった(汗・・・)

あなたは住宅に興味はないの?マイホームはほしくないの?
そっ、そんなことはないけど・・・
京子の熱い問いかけに返す言葉もなくあやふやな返事をしたが、マイホームなんて
考えたこともなかった。
社宅住まいに不満もなく、自分の時間を有意義に満喫していたので家に対してのこ
だわりは微塵もなかった。しかし、京子は理想をしっかり持っている。
毎日一緒に暮らし、妻の夢も知らなかった自分が少しだけ腹ただしく思えてきた。
実はと、夕べの結婚式での出来事を京子に話した。

ねえ、今日はお休みだし住宅展示場に行ってみない?
行こう!ねえ、パパ行こうよう~。あかりがせかします。
京子が満面の笑みでこぶしを突き上げます。
「佐藤家のマイホーム大作戦!」
あかりも同時に大作戦!両手を高々とあげて楽しそうです。
圧倒されつつも、「それじゃ~、行ってみようか」と重い腰をあげた秀樹でした。

郊外にある住宅展示場にやってきました。
あるは、あるは、すごい数のモデルハウスが建っています。
こんなに住宅メーカーってあるんだ、会社の名前を覚えるのも一苦労だな。
受付で名前を書きいざスタート。
まずはTVのCMでやっている有名なメーカーのモデルハウスに入ってみること
に。

「 いらっしゃいませ。」
満面の笑みでお出迎え。
ごゆっくりご覧くださいと女性スタッフが中へ誘導してくれた。

でっ、でかい!というより広すぎる。
玄関はアパートの居間くらいあり、2階まで吹き抜けている。
奥へと通され又、びっくり。
これが居間なのか?
高級リゾートのラウンジのようでくつろぐ場所を選んでしまうような広さだ。
面食らっている僕にこの居間は、そんなに広くないですがLDKで30畳あるんで
すよ、と女性スタッフ。

そんなに広くないって、僕には体育館のように思えてしまう。
新築住宅のLDKは30畳が普通なのかな~?
少し気後れ気味の僕をよそに、京子は目をキラキラ輝かせワー、すご~い素敵。
ん~、すご~い!を連発している。
娘のあかりはというと、家などそっちのけで貰ったグッツで遊んでいる。

素朴な疑問がよぎり女性スタッフに尋ねてみる。
ところで、LDKって何ですか?
にこやかな笑顔で答えようとするスタッフをさえぎるように、今まで言葉を発せず
傍らにいた営業マンとおぼしき男性が
リビングとダイニングとキッチンの頭文字をとってLDKです。
このほかにお部屋が4つあれば4LDKになりますよ、とにっこり答えてくれた。
へ~、そうなんだ。なっとく、なっとく。
営業さんが名刺を出しご挨拶してくれる。
住宅の購入をご検討ですか?よろしければご案内します。
ご主人、奥様、こちらへどうぞ。手招きされながらキッチン、洗面室、浴室へ。
これが、一番人気の大理石を使ったキッチンです。食器洗い機もレンジも電気で動
きます。浴室はスライドバーシャワーでワイド鏡・・・。

これは、あれはと専門用語を並び立て、矢継ぎ早に商品説明を始めた。
2階も一通り案内され、京子はうん、うんと簡単しきりだ。
しかし、僕は豪華なモデルハウスに圧倒され浮き足立った感じ。
それでも何か聞かなくてはと思いこの家の大きさと値段を聞いてみた。

はい、同じもの建てるとすると4LDK、60坪で5000万円です。
土地代金は別ですが。」と満面の笑み。

ごっ、ごせんまんえん!土地代金はべつ~。
無理!買えない。
久しぶりのびっくりに胸がどきどきし始めた。
僕のバイクなら60台、京子の軽四自動車だって50台は買える。
家の価格と何かを比較しはじめたら、気持ちがブルーになってきた。

う~ん。帰りたい・・・

落胆とも困惑ともつかない僕の表情をみて
こんなの買えるわけがないじゃない、ここはモデルハウス何だから。
京子が大笑いしている。
私はもっと、コンパクトで可愛らしい家がいいな。
あんまり広いのは落ち着かないもの。
ねっ、あかり。
「お城がいいの、あかりは。」
気遣いを見せてくれる京子の言葉に安心した。

そういえば、今朝の住宅販売のチラシに土地付一戸建てが
2500万円~2800万円くらいでたくさん出てたよな~。
気を取り直し営業さんに尋ねてみた。

建売住宅は土地の購入値段や場所により価格が異なりますが4人家族がもっとも
住みやすい大きさの34~36坪の大きさに設定してあります。
建物の価格はメーカーや工務店、装備によっても差がありますが
坪単価50~80万円前後になっています。

坪単価?
住宅は1坪ごとの単価で計算するのですか?

お客様に分かりやすいように目安として坪単価を用いています。
新たな発見です。
とすると、このモデルハウスは5000万円割る60坪だから
え~と、83万円!すごい、どうりで圧倒されるくらい豪華だわ。
う~ん、すばらしい・・・。

あのう、ちょっと聞いてもいいですか。
35坪ってどのくらいの部屋が取れるのでしょうか?
京子が唐突に質問し始めた。
はい、1階に4,5畳~6畳間のお部屋が1つに押入れ付。LDKで14~18畳
が取れます。お風呂は1坪タイプにトイレは1畳、2階に6畳間が2つ、8畳と収
納が取れる感じです。営業さんが流れるように説明してくれる。
じゃ、このモデルハウスの半分くらいでしょうか?
そうですね。そう思っていただいて結構です。

ちっちゃいでしょうが!と、つい口走ってしまった。
そんな事はないですよと営業さんが苦笑い。このモデルハウスはお客様に夢をみて
いただく場所です。お気に入りの場所を見つけていただき、実際に建てるときの参
考にしてもらうため工夫を凝らし、広く、豪華に作ってあります。
けして大きい、小さいでの比較はしておりません。

そうだよな~、みんながこんな大きい家にすむわけないもんな。
僕は、この家のどこが好きかな?
宝探しでもするように家中を見渡してみる。
京子も同じ思いなのかゆっくり目線を移動させている。

お客様!理想のマイホームプランを作ってみませんか。
考えるよりまず、形にしてみるのが一番です。

えっ?プラン?何で?今?いきなりですか?
京子と顔を見合わせた。
突然、プランニングの話をされ、二人とも目が点になっている。

土地はお持ちですか?なければお探ししますよ。
当社の分譲用地もありますからそこで仮のプランを作りませんか。
営業さんがどんどん押し込んでくる。

ちょっと苦手だな、こういうシチュエーションて・・・
今日は見学のつもりで来ただけなのに展開がやたらに速い。

まだそこまで考えていないので今日は結構です。とやんわり、お断りした。
それではアンケートにお答えくださいと渡された用紙は個人調査書のようなもの
だ。
住所、氏名、生年月日、勤務先、年収などETC・・・
モデルハウスの感想などほんの2問程度。
住宅を購入する事を目的に来場している人にとっては、当たり前のことなのかもし
れないが、何で初対面の人にここまで教えなければいけないのか。
先程の、いきなりプラン作成の話といい、何か腹立たしさがこみ上げてきた。
書くことを渋っているとお客様のために、お役立ち情報を送らせていただきたいの
で、と営業さん。
住所と電話番号だけを書きモデルハウスを後にしたが、ちょっとだけ後味の悪さが
残った。

モデルハウスを出たところで京子が話しかけてきた。
びっくりしたね~。いきなりプランだって!
あんまり驚いてモデルハウスの中、ぜーんぶ忘れちゃった。
俺、ちょっと不愉快だった。いきなり個人情報だよ。
でもさ~、ほかの人達は参考資料やプラン、価格の事なんか多くの情報をたくさん
提供してほしいからお話するんじゃない。
ま~そうだけど。なんか楽しくなかったよ。
ねー、私達ってマイホームがほしいよー、1年生じゃない。
分からない事だらけが当たり前だと思うんだよね。
だから、楽しく過ごすための、もしも探しをしない?

もしも、探しって?
できるだけ具体的に。
そうねー、たとえば秀樹は読書が好きでしょ。
もしも、専用の書斎があったらくつろげるだろうなーとか。
バイクをこよなく愛する人だからもしも、部屋の中からバイクを眺めることができ
たら嬉しいなーとか。

うん、うん。それいいねー。
さすが京子、俺のことよくわかってんじゃん。

なんだか楽しくなってきたぞ。

ねっ、わくわくしてきたでしょ。
じゃー、京子のもしもは?
私なら、うーん、そうねー。
趣味のパッチワークをダイニングテーブルでしているんだけど片付けるのが面倒
なときがあるの。だから、もしも、専用のカウンターがあった嬉しいな。
あかりが作った幼稚園での工作物や写真を飾っておける場所がほしいから、
もしも、あかりちゃん専用ミュージアムなんていうブースを作ったら楽しいな。
家の中じゃないんだけれど、もしも、お花や野菜を育てる場所があったらいいな。

春にはチューリップ、夏にはひまわり、バラにカスミソウ!
お花で部屋中をいっぱいに飾りたい。トマトにきゅうり、かぼちゃにスイカ。取れ
たて野菜を素敵なキッチンでお料理するの。
秀樹やあかりの笑い声を家の中で感じていたいから、対面式キッチンだったら幸せ
だなー、とかね・・・

もしもの願望に、具体的なイメージをつけると楽しくなってくるね。
うん、とっても華やいだ気分になってきたわ♪♪♪
もしも探しをするために、ほかのモデルハウスもたくさんまわってみようよ。
ところであかりは、どんなもしもがいーい?

お・し・ろ!
そうでした・・・あはは。
精力的に8件のモデルハウスを見学した。

目線を変えてみると色々な発見があるもので、住宅メーカーによりPRポイントが
異なっている。
デザイン、省エネ、暖房機能。シンプルモダン、ナチュラル、和系のようなイメー
ジわけをする言葉があり、坪単価と呼ばれる価格もまちまちだ。
今回、見学したモデルハウスは僕らにとって少し大きすぎて、現実味がなかったが
分かった事がひとつだけある。
こんな豪華なものは買えないが、自分達のスタイルにあった住宅があるんじゃない
かなって。
自分のお気に入りの場所とは何か、探したいと素直に思える。
たくさんのグッツや風船を手に、あかりは満足そう。
そして僕らはマイホームを手に入れる決意をし、晴れやかな笑顔で会場を後にした。

PS,
秀樹、京子、あかりのはじめてのモデルハウス見学。
それぞれに思いを秘めた、もしも探し。
マイホームを手にするためにこれから、ひと波乱もふた波乱も待ち受けています。
さてさて、佐藤家のマイホーム大作戦!
どうなることでしょう。


最近、ちょっとノイローゼ気味だ。
展示場に行ってからというもの、毎日のように住宅会社の営業さんから電話がか
かってくる。
アンケート用紙を記入した際、自宅以外に携帯電話の番号を書いたため、勤務中
にもかかわらず頻繁に電話が鳴り、帰宅後9時を過ぎてもコールされるし
近くで待っているのか玄関に入って10分もしないうちに突然チャイムを鳴らし
押しかけてくる営業さんもいる。
うんざり気味でフラストレーションがたまる一方だ。
ねー京子。僕達この2ヶ月間、たくさんのモデルハウスを見学して自分達のもし
も探しが具体的になってきたと思うんだ。
これだけ頻繁に営業さんからアプローチを受けるのも限界だし仕事をしていても
落ちつかないんだ。
それで、どこかにプランを依頼しようと思うんだけど。

そうねー、建設地も通勤やあかりの小学校区を考えて、おひさまタウンに決めた
し、そろそろ設計の依頼をしてもいい頃かもね。
それに、秀樹も毎日営業さんと話すのも限界でしょ!

限界です!((笑い・・)

おひさまタウンの中にニコニコホームのモデルハウスがあったじゃない。あそこ
の造りがなんとなく好きなんだけどあそこにお願いしてみない?
そうだね、僕もなんとなく気になっていたんだ。
明日は土曜日で休みだから早速、行ってみよう。

翌日、ニコニコホームをたずねた。

元気で歯切れの良い応対の営業さんに心良くし、自分達の欲しい土地や好みの間
取り、予算について細かく伝えた。
丁寧にプランオーダー表に書き込んでくれている。
これなら、素敵な住宅ができるなと僕も京子も久しぶりにはしゃいだ気分。
1週間後に提案してくれるというので日時を約束してモデルハウスを後にした。

帰りしな、希望の土地を見ると何となく違和感が。
ん?・・・
以前見たときの感じとなんとなく違う様な?
気のせいかな???

パパ、おなかすいた!早くマックに行こうよう!
なんとなくよぎった思いもあかりの声にかき消されその場を立ち去った。

翌週、出来上がったプランを見て不快感を覚えた。
京子も同じ思いなのか思案顔をしている。
伝わっていないのかな?先週の打ち合わせ・・・・。
広さやゆとりを感じない。まるで現在すんでいる社宅のようなプランだ。

あのう、僕達が伝えたイメージとはちょっと違うような気がするんですが?
対面キッチンは居間へ向ける。
吹き抜けのイメージはこのモデルハウスのような開放的なものに。
バイクを眺める場所もないし、妻専用の趣味のカウンターもないですよね。
広い空間とバイクを眺める空間が取れなければ一階に部屋はいらないとお願いし
ませんでしたか?
頂いたプランオーダー表にも書いてありますよ。

申し訳ありません。設計には伝えたんですが。
歯切れの悪い返事だ。
本当に伝えてくれたんだろうか?と、いうよりこの人は僕達に提案する前にプ
ランの確認をしてくれたんだろうか。何か、釈然としない。

2階のイメージは問題ないと思いますが、やはり1階の間取りはやり直していた
だけませんか。

大変申し訳ありません。社に持ち帰り設計と熟考いたしまして、再度のプラン
を提出させていただきます。
でも、佐藤様!
オーダー住宅はこういう問題をひとつひとつ解決しながら理想に近づけます。
私達も最善の努力で設計致しますので根気よくがんばりましょう。
満面の笑みで答える営業マン。

でも?
根気よく?
問題を解決する?
その言葉に僕も京子も?マークがついた。
一週間待って一時間でやり直し。さらに、一週間。大丈夫かな・・・

約束の日の朝。いつもより会話が少ない二人。
もしも探しをしていた時のような、ワクワク感がない。

伝わったかなー、私達の思い。
ちゃんと伝わっているかなー?
小さな、そして不安げな声。僕の心を代弁しているようだ。
今日は大丈夫さ!素敵なプランになっているよ。
そうよね。きっと素敵なプランになっているわよね。
弱々しい会話のあと約束の場所へと車を走らせた。

再提出のプランは満足するものだったが住宅展示場で見たモデルハウスのようだ
った。

素晴らしいでしょう!
今回は佐藤様に満足していただけると自身を持っています。
それで、お見積り金額ですがこのとおりになります。満足そうに話す営業マン。
見積書をじっとながめた。
土地代金900万円。車庫付建物が2600万円。諸経費の200万円を入れて
合計3700万円
500万円の予算オーバーだ。
お伝えした私達の予算とあまりにかけ離れていませんか。
佐藤様の要望を100%満たすとこの価格になります。無駄なスペースを省いて
いただくと坪数を減らすことが出来、金額も下がりますよ。
予算を優先しますと、前回お出ししたプランが限界になります。
プランを修正しますか?

えっ!
限界?無駄?
僕達の理想をそんな言葉で片付けないでよ!
納得がいかないものを二者択一で決めろというのか。
心が叫ぶ!
広い空間が取れないなら一階に部屋は要らない。
僕は何度もいいませんでしたか?それでも広さが足りないんですか。
たくさんメモを取ってくださっていたので100%の要望は叶ないにしてもまさ
か一番大切なところを省かれるなんて。
少しいらだった口調で営業マンに詰め寄った。

建たないんですか?
私達の予算じゃ、無理なんですか、と京子。
駐車場のアスファルト工事を含めても収まる範囲だとおっしゃいましたよね。
坪単価50万円を予算していれば大丈夫だって。
あれやこれやが別途の追加工事になりますなんて今更言われても。
嘘だったんですか?
私達、どうしたらいいんですか?
今にも泣き出しそうな京子。

すみません。
社に持ち帰りプランの練り直しをしますのでもう少し時間をいただけますか。
営業マンの顔も少し青ざめている。

私達も待ちますので、予算内で何とかプランを立ててください。
京子の懇願とも思える言葉は僕の心に重くのしかかり、同時にこの営業マンへの
猜疑心に変わり始めていた。

出来次第、お電話いたしますので。

同じことの繰り返し。
何かのせいにして逃げているこの人を信頼してもいいのかな?
あなたはもう結構だ!大声で叫びたい気持ちになったが今となってはこの会社
に頼むしかないとあきらめの境地になっていた。

PS
営業マンのアプローチに嫌気がさした二人はいよいよプラン依頼をしますが
思いが伝わらずジレンマに陥り心が折れそうになってしまいます。
しかしこの数時間後
衝撃的な出会いがまっている事など思いもよらない秀樹と京子とあかりでし
た・・・


久しぶりの実家、マイホームを建てることを伝えに来たのだ。
モデルハウスめぐりをしていて2ヶ月ほど来ていなかったため父と母は孫のあか
りを抱きしめ大喜び。
まだ20分もたっていないのにおもちゃをを買いに行く話をしている。
居間から続く和室で大の字になり大きく手足を伸ばした。
気持ちいい!つい、口に出てしまう。
この家で一番お気に入りの場所だ。
京子はひとり掛けのソファーに腰掛けスツールに足を伸ばし、最高ーとくつろい
でいる。
これは父専用の椅子だが、遊びに来ると必ず京子を座らせる。
佐藤家で唯一のプレミアムシートを京子に譲ることで愛情表現をしているよう
だ。
京子も又、それを知ってか遠慮はしない。
家族は思い思われの心でつながっていると父母から教わった僕の理想だ。

実はさ、
今日も建設会社と話をしたんだけれど希望の間取りや予算が合わなくて。
家を建てることっては中々大変だよね。」と父に。
京子も母に家のことを話している、というより愚痴っている感じだ。
自分達の思っていることを伝えようとするんだけれどうまく噛み合わなくて、プ
ランができたと思ったら予算オーバー。収納棚やカウンター、ニッチなんかお
願いすると必ず追加工事になりますって言われるの。
夢や希望を話すとみんなお金になっちゃって、何をどうしていいか分からなくな
ってきたと家作りのフラストレーションを父と母にぶつけていた。

杉浦さんちの向かいの空き地を覚えているか?
父が私に問いかける。

うん、小学生の頃はいつも遊んでいたから。
あそこの土地にモデルハウスが建ったんだ。
先週、見学に行って営業さんと話をしたらすごく楽しかったぞ。
北側の土地なんだけれどすごく明るいんだ。うまく作るもんだ。
京ちゃんと一緒に行ってきたらどうだ?
あかりはおもちゃを買いにつれてゆくから二人でゆっくり見てこい。
あかりも行くー。
おもちゃを買いに行かなくていいの、あかりちゃん?と母。
だってじいちゃんが楽しいところだよって言うからあかりも行くの。
そのあとみんなでお買い物に行って、夜ごはんはびっくりドンキーでハンバーグ
を食べるの。いいでしょ、ばあちゃん!
うん、うんとおねだりを喜んでいる母。

午前中の打ち合わせに嫌気を感じていて、京子も僕もそんな気分じゃなかったが
父があまりにも楽しそうに話すので冷やかし程度に行ってみることにした。

ピンポーン!チャイムを鳴らしドアを開ける
太陽の明るい日差しが玄関を照らし、土間から続くホール、居間、階段、二階ま
でもがひとつの空間で閉鎖的なイメージがまったくない。

こんにちはー♪♪
やさしく包み込むような声と笑顔の女性スタッフ。
こんにちは!穏やかなまなざしの男性スタッフ。

今までのモデルハウスでは感じたことのない穏やかな暖かい空気が流れていた。
何だろう、この感覚は・・・・
気落ちしていた僕たちの心を癒してくれているようだ。
言葉を発せず穏やかな笑みを向けてくれる二人。
何かに導かれるように自然と家の中を見学し始めた。
春の陽気を感じながら、散策している気分になる。

突然、あかりが男性スタッフに話しかける。
あのね、あかりね、幼稚園のおゆうぎ会でシンデレラをするの。
シンデレラ!素敵だなね~と、やさしいまなざし。
あかりの目線にあわせるようにしゃがんで話を聞いてくれる。

お友達のたくちゃんが王子様で、かえでちゃんが魔法使いなんだよ。
たくちゃんとかえでちゃんと仲良しなんだね。
うん。とっても仲良しなんだ!

こんな気さくに話すあかりを見るのは以外だった。
初対面の人には時間を要する子だけに母親の京子もびっくり。

あかりー、おじさんになにお話しているの。おじさん、迷惑でしょう
そんなことないよ。おじさんの目はお話しようって言ってるもん。
びっくりした。
僕たちが感じている包み込むような穏やかさは、子供のあかりが敏感に感じとっ
ていたのだ。

二階に行ってみませんか?女性スタッフが優しく手招きしてくれる。
あかりちゃんも行こうよ。お城の舞踏会で踊っているような気分になるよ!

えっ?お城?いくー。
階段は木のぬくもりを感じるようでいながら鉄製の手すりをあしらいモダンな創
りになっている。階段づたいに目をやり見上げると、壁の一部を薄くへこませア
ートガラスをはめ込んでいる。
見つめる京子に、あれはガラスにシールを貼っているんです。
色々なデザインがあって楽しめますよ。奥様でも簡単に張替えができますから、
自分空間を彩ってみてはいかがですか?

高いんですよね~。

あそこに張っているものが一番大きくて15000円です。
新築時に付けるとガラス代金、施工費を含めても25000円でしょうか。
ちょっとお高めですが最高のモダンアートになります。
これを作るだけで、こんなに高級感があふれるなら、ぜんぜん高くないですよ♪
京子がはしゃいでいる。

ママ。早く階段を上って!
舞踏会に行くんだから。階段の途中で話し込む京子をあかりがせかします。

うわー、すてき!わー、おしろだ~。京子とあかり、同時に叫んでいます。
開放的な空間に胸が躍るようです。
二階のフリースペースからは居間はもちろん一階のホール、ダイニングまで見渡
せすべてがつながっています。
これに車庫がついたら完璧だ。僕の心が大きく揺れ動きました・・・・。

あかりちゃん、シンデレラごっこする?
やるー!
おー、ロミオ!どうして君はジュリエットなの?
ん??。一瞬の沈黙です。
おじさん!違うよ!それってシンデレラじゃないよ!

ひよりさん、それはシンデレラじゃなくてロミオとジュリエットです。
間違ってますよ、と笑顔で話す女性スタッフ。
えっ、そうなのにしおかさん。
みんな、大笑いです。
あかりはもういいやと呆れ顔です。

男性はひよりさん。女性はにしおかさんて言うんだ。
やさしい時間を作ってくれる人たちだな~。

にしおかさんが名刺をくれた。
インテリアコーディネーター西岡亜紀と書いてある。
この家は何坪の住宅ですか?毎度、おなじみの質問をしてみた。
はい、建築面積は34坪。吹き抜けの1.5坪を含め施工面積は35.5坪で
す。
えー!1階に仕切れる6畳間があるのに、なんでー?
京子の驚嘆の声
今まで見てきたものとはまったく違う。
西岡さんは坪数をごまかしてるのかな~、まさかね。

ピンポーン!チャイムが鳴った。見学のお客さんかな?
もう少し話を聞きたいのにな~

木村さん、いらっしゃいと、ひよりさん。
ひよりさんが提案しているお客様のようですがなんだか様子が変です。
お客様のご主人がひよりさんに謝っているようです。

申し訳ありません、ひよりさん。
どうしても会社の取引先で施工しなければなりません。
親身に相談にのってもらいお詫びのしようもありません。
ひよりさんとごとう先生が作ってくれたプラン通りに建設してもいいですか?
ご婦人がひよりさんをじっと見つめています。

何をおっしゃってるんですか。あのプランはご夫妻のたくさんの思いがこもった
ご夫妻のプランです。
私達はちょっとだけお手伝いをしただけです。そんな事気にしちゃだめですよ。
この図面通りに建てていただけるなんてこれ以上の幸せがあるもんですか。
ひよりさんの笑顔がご夫妻を包みます。
ご婦人の目は真っ赤に染まり、ご主人と奥様の顔はくしゃくしゃになっていま
す。
ひよりさんとご夫妻の数秒間の沈黙がすべてを物語っているようでした。

一礼され、出て行かれた後の数秒間、別れを惜しむかのように。
いや違う、幸せを願うかのようにお辞儀を続けていました。
ひとしずくの涙が床にこぼれ落ちた瞬間、僕と京子とあかりの三人が顔を見合わ
せます。

思いがひとつになりました。

ひよりさん!僕達の家を建てていただけませんか!
乾ききっていない目を大きく開きびっくりしています。
小春日和!
お日様のひよりですと、ひなたのような笑顔で渡してくれた名刺には
「笑顔があふれる毎日を」と書いてあります。

三か月前から始めた僕たちのもしも探し。他社でプランニングをした事。
一生懸命、伝えているのに理解してくれない事。
伝えられないジレンマを日和さんにぶつけました。
包み込むようなまなざしでじっと聞いてくれています。
話し終えた僕たちに「ごめんなさい。」と頭を下げてくれるのです。
えっ、なぜ?なぜ謝るの???

私達営業マンの中には、売り上げの数字に追われ大事なことを見失う者がいま
す。
家族の笑顔の貯金箱。決して失うことのない絆の箱。
楽しいことや嬉しいこと。悲しいことや苦しいこと、みーんなまとめてしまって
おける大切な宝箱。
今日も明日もあさっても幸が満ち溢れることを願う場所。
その場所作りのお手伝いをするのが私たちの仕事です。
提案した営業マンも心は同じはずだと思います。
不愉快な思いをさせてごめんなさいね。

嬉しかった。
伝わる。この人になら・・・・伝わる。

持っていた土地資料を机の上に出し自分たちの理想のプランを話そうとしたら
佐藤さん、明日の日曜日ですがお時間ありますか?
はい。今日は実家に泊まりますので午前中なら。
ちょっと待ってもらっていい出すかと、席を立ち携帯電話をかけ始めた。
誰かにアポイントを取っているようだ。
席に戻りにっこり。
明日、設計者を同席させて頂きますので佐藤さんの思いを直接つたえましょう。
お客様の人柄や趣味趣向を直接感じないと的外れなプランを造り、ご迷惑をおか
けするのでと先生はいつも話されていますから。

先生!そんな偉い人が来るんですか?
なーんにも偉くないですよ。話をよく聞いてくれる優しい人ですよ。
私が最も信頼を置く設計者です。何より私どもの工事価格を熟知しているので予
算からかけ離れた建物にはならないので安心です。
土地資料をお借りしてもいいですか?
明日お返しいたしますので。

あっ、それと宿題を出してもいいですか。
宿題????
なんだろう・・・。

学生のとき以来でしょう、とにっこり。
ご主人と奥様、そしてあかりちゃんのこんな感じのものが造りたいベスト3を紙
に書いてきてくれませんか。それと優先順位も決めてください。

もしも、台所を造るとしたら対面キッチンがいいなーとか
お風呂は広いほうがいいなーとか
吹き抜けは絶対譲れないとか・・・
あかりちゃんなら
シンデレラやミッキーマウスがお部屋いっぱいにいたら嬉しいなーとかね。

ミッキーがいるお部屋つくれるの、おじさん!
ああ、造れるよ。お部屋いっぱいに、でずにーランドの壁紙を貼るのさ。
ミッキーもミニーもくまのプーさんだっているんだよ。

でずにーじゃなくて、ディズニーだよ、おじさん。
家の中が笑いであふれます。

家造りで一番大切なことは限られた予算を上手に配分することです。
お金がないからあきらめようと自分を説得するのはやめましょう。
あれもこれも欲しいけれど、一番欲しいのはこれ。二番目に欲しいものは、
という風に順位をつけることで納得することができます。
自分を説得するのではなく納得した家をつくりましょうね。

迷い道から抜け出たような安心感が全身を包みます。
もしも探しが、本当に探しあてることができるんだ。
夢が現実になるんだと確信した僕らです。

翌日、緊張する私達に設計の後藤先生を紹介された。
後藤先生はとってもシャイだ。最初はとっつきにくい感じを受けたがとてもやさ
しい笑顔で僕達の要望を聞いてくれる。
先生、近隣の写真です。参考にしてください。土地の写真をじっと見つめてい
ます。

ひよりさん、あれから撮影に行ってくれたんだ。行動が早いなー。

この土地はと先生が話し出します。
分譲用地には珍しく右側に傾斜し両サイドの土地より一段低くなっています。
長雨が降ったり大雪のときなど少し苦労するかもしれませんね。
それに、裏と両隣の住宅がこの土地の方向へ接近するように建築されています。

えっ、できないんですか?
京子が困ったような口調でたずねます。
前回、通りすがったときに感じた違和感はこれだったんだ。
この土地はだめなのかなー?建たないのかなー?

後藤先生がいたずらっぽい笑顔をしながら
はい、普通の家は使いづらいでしょうね。しかーし!
モダンで個性的な、かっこいい家になりますよ。
佐藤さんのお話を聞いてひらめきまた。

「あせらせないでくださいよー先生!んー、もう!」
みんな笑っています。
来週にはプランをお見せできます。
そのときには概算のお見積もりもできていると思いますよ、ねっ、日和さん。
はい、がんばりまーす!

金曜の夜、なかなか寝付かれない。明日はひよりさんに会う。
先週の打ち合わせから、待ち遠しさが湧き上がりどんな家になっているんだろう
と、ワクワク感が止まらない。
京子もあかりもテンションが高く久しぶりのときめきに華やいだ夜をすごした。

翌日。
出来上がったプランを後藤先生が説明してくれる。
スキップフロアー風で家の中に高低差をつけ、居間が二階に感じる仕上げ。
一階の車庫とフリースペースの間には大きな窓。
いつでもソファーからバイクを眺めることができる。目線を上へ移動させると
そこは京子が望んだ対面キッチン。
斬新的なプランに感動の嵐、嵐、嵐!!!
すべての要望が満ち溢れている。
家中のインテリアを想定したコーディネートを西岡さんが説明してくる。
申し分がない。100%だった。

プランは気に入っていただけましたか。
いつもの穏やかな優しい眼差しで見つめてくる。
はい、僕達の要望がすべて入った理想の家です。
でっ、気になるのがお値段なんですが?

ごめんなさい、気を持たせるようで、と静かに見積書を出してくれた。
夕べ京子と話し合い、多少高くてもひよりさんにお願いすることに決めている。

えっ、すべての費用ですか?
お庭や駐車場のアスファルト工事。
ニッチやアートガラスの費用は入っているんですか?

はい、引越し代金やお鍋にお釜は入っていませんが建築にかかわる費用はすべて
入っています。
後藤先生が無駄と思える部分は徹底的に省き、必要なゆとりは最大限に広げた会
心作です。車庫と家を含めて40坪で収まりました。
土地代金、建築費、諸経費を合わせ3200万円。
当初の予算よりも安くなりました。

うっ、うっ、京子が泣いています。

どうなさいましたか奥さん。ひよりさんが心配そうです。

あれをしたといえば追加費用ですと言われ、これを付けたいといえば又追加。
ここをこうしたいと言えば坪数が増える。
お願い事や相談事を持ち出すたびに
夢の炎がひとつひとつ、心から消えていくんです。
マイホームなんて持てないのかな?持っちゃいけないのかな。
夢さえ描いてはいけないのかなって・・・

不安だらけで楽しくなかった。
でも皆さんは、私が望む以上の夢を盛り込んでくださいました。
伝わっているんだ。
伝わったんだって思うと嬉しくて嬉しくて。

九月。
小春日和の穏やかな日。
「秀樹ー、あかりー、ごはんだよー!」
「はーい。」
幸せ家族の声が、家いっぱいに響きます・・・
おしまい。
PS、貴重なお時間ありがとうございました
これからも人と人のつながりを大切にした家造りをしていきます。